実践報告

ここにあるものは、授業構想、手法(くふう)です。足あとです。

生徒に安心感をもたせるための私のくふう

 

1,「話し合いを推奨するが強制しない」

インプットしたものをアウトプットする利点は先に説明します。ディスカッションは理解への近道だと言います。話し合いできる時間は設けています。しかし強制していません。

 

2,「ノートをとる意味を考えてもらう」

授業中ノートはなぜとるのかというと、あとで見返すためです。きれいに書ければそれに越したことはありませんが、授業中ノートをとるのである程度の速さが必要になります。その2つの目的を満たすようなノートのとり方をしてください。と授業ガイダンスで伝えています。その際、カメラやボイスレコーダーの使用を認めています。人には得意不得意があるから、と理由も説明しています。

 

3,「過去の授業プリントは廊下にストックする」

授業を休む生徒がいます。その生徒が授業に追いつけるよう、授業はプリントで進めています。プリントを取りに来る生徒が私と接触しなくて済むよう、終わった授業のプリントは廊下にボックスを吊るしてそこにストックしています。

 

4,「板書をネットにアップする」

私はプリントで授業を進めていますが、板書を少ししています。なのでプリントを見ても授業の全貌が明らかではありません。欠席者にも板書を見せるため、授業中に板書をデジカメで撮り、それをネットにアップしています。昨年度はFacebookとLINEに投稿しました。

 

5,「1回は無記名アンケートをとる」

授業に対する生徒の反応はさまざまです。生徒の顔色や行動を見ても授業に対して生徒がどう考えているか私は看取ることができないので、授業アンケートをとっています。30項目以上のアンケートをとる中で、授業に対して厳しい反応を示す回答がありますが、そのような反応を見たいので1回は無記名式にしています。その結果はスライド等でフィードバックしています。

 

6,「板書を大きな字で書く、教室の後ろまで聞こえる声で話す」

アウトプットは相手に届くことを意識しています。

 

7,「よほどのことがない限り生徒を当てない」

生徒を指名して答えさせることの教員側の目的は、生徒の理解の程度を測ること、生徒に緊張感をもたせること、アクティブな雰囲気を醸し出すことだと考えています。一方、特定の生徒の理解を確認することの効果が限定的なこと、授業に不要な緊張感をもたせる弊害など、見せかけのアクティブさに振り回される恐れがあります。なにより、自分が分からないことが他の生徒に知られることは嫌なことです。私は積極的に指名して答えさせる意義を感じません。

 

8,「勉強する意味を考えてもらう」

学校では、生徒は教員から与えられるものを高いクオリティで乗り越えることを常に期待されています。受験に必要なのか、社会に出て必要なのかを疑問に思いながらも「この世に無駄なものはない」というお題目で疑問を振り払い、学業に邁進します。

私は、勉強する意味は何かを考えてもらうために学習内容は「実学」「教養」「専門」に分かれているということを年度の途中にスライドで説明しています。すべての人が専門家になるわけではないこと、すべての人に実学的事項を知ってもらいたいと思っていることを伝えます。あとは自分で選択できることを期待しています。

 

9,「5段階評価の基準を初めに伝える」

恣意的な評価の付け方をしていないこと、えこひいきなどで成績を左右していないことを伝えます。また、不得意なことがあっても他のことで挽回できることを事前に見通せる材料を提供しています。

 

10,「授業の約束事を掲示する」

他の授業では禁じられていることをこの授業ではむしろ推奨するという事柄は、生徒はやってもいいとわかっていても行動に移しにくいので、年間を通して「許可事項」を掲示しています。

 

2015年4月現在

 

授業とネットの関連付け

授業を休んだ生徒が授業内容をチェックできる方法は以下の3つ

 

1,Facebook(当日中に板書写真をアップロードしています)

2,instagram(同上

3,このページ(のつもりでしたがこれは断念中。ひと手間ふた手間かかると継続できないものですね)

※ 2015年度まではLINEでアップロードしていました。

 

~2018年度

試行錯誤のおはなし(授業スタイルの変遷など)

 

概要「授業の目的に応じて手段を変える」

・わかりやすい授業、おもしろい授業をする必要はなかった(テレビ番組的授業からの脱却)

・授業目標をシンプルに目指す(コンテンツベースからコンピテンスベースへ)

・私の観点別評価、絶対評価(年度始めに生徒に公開すること)

・学校教育ができること(目の前に教員がいること、周りに生徒がいること)  

 

第1期

いつ・どこで?

2007~2009年度・青梅総合高校全日制(大学進学希望多数)・ 理科総合A・化学Ⅰ・化学Ⅱ

スタイル

板書とノート授業・教科書は参考程度

具体的には?

重要な点に使う「はかせポイント」マーク考案 ノート案を作り授業に臨む クジによる指名と対話による授業進行

なぜ?

①授業進度が予測できないため「行けるところまで行く」

②単元内の学習事項の順番を変えるため「黒板が教科書」

心がけたこと

「(~が)わかる授業」いろいろな工夫をしてわからせることを目指す

「スモールステップ」問題演習を数多く行い少しずつ難易度を上げていく

今も変わらないこと

演示実験・生徒実験は可能な限り多く行う

ノート提出は求めない

筆記具は3色ボールペンだけで十分

寝ていても注意しない

評価の基準を初回授業で明示(絶対評価)  

 

第2期

いつ・どこで?

2010~2012年度・新宿山吹高校定時制(大学進学希望多数)・ 理科総合A・化学Ⅰ・化学Ⅱ・化学基礎

スタイル

板書とプリント授業・教科書は参考程度

具体的には?

青梅総合時代のノート案をベースにプリント*1を作成(年60・90枚)

生徒に積極的に指名しない・対話しない

なぜ?

①授業進度が予測できないため「行けるところまで行く」

②単元内の学習事項の順番を変えるため「プリントが教科書」

心がけたこと

「(~が)わかる授業」 問題演習よりも「理解を目指す」

変更した理由

生徒はよく休む=板書ノートだと授業に復帰するのが難しい

学力はさまざま=授業中の演習はどの層にも不適

内向的な生徒は指名や対話に苦手意識がある

授業に行かない「自由」が生徒にある 

評価

2012年度は観点別評価を実施。出席点10%+考査点60%+レポート点30%  授業の質問・感想等を毎回集約(ネット経由も可)、それらに回答

*1 授業プリントの余りを廊下にストック、穴埋め正解を常設、ネット共有サービスにアップ 

 

第3期

いつ・どこで?

2013~2015年度・新宿山吹高校定時制(大学進学希望多数)・ 化学Ⅰ・化学基礎・化学

スタイル

教科書中心・講義とワークシート併用形式・授業の定型化

具体的には?

100分中10分チェックテスト20分前回の振り返り10分演示実験(講義形式)、60分がワークシート形式

なぜ?

①受け身の授業を変えるため「自分で考える」

②理解を深めるため「生徒が生徒を教えることを推奨」

心がけたこと 「参加する授業」

授業の目的(~を説明できる)をワークシートに明示

変更した理由

授業に受け身である限り「教え込まされる教育」に留まる(テレビ的面白さで生徒を引き付ける限界を感じた)

学力はさまざまでも互いに高めあうことができる

通信教育との差別化「学校でしかできないこと」は実験と学び合い*2  

評価

2013年度も観点別評価を実施。ワークシート点40%(実験含む)+考査点40%+チェックテスト点20%

*2 ここでの学び合いは『学び合い』(上越教育大学,西川純氏)とは異なる生徒同士の聞き合い教え合い

 

第4期

いつ・どこで?

2016~2018年度・第四商業高校全日制(半数が就職)・ 科学と人間生活・化学基礎(2年・3年選択)

スタイル

科学と人間生活:教科書の重要コンテンツを講義・生徒実験を同頻度実施・調べ学習と発表を毎単元・授業の定型化

選択化学基礎:教科書の重要コンテンツを講義・生徒実験をなるべく実施・ワークブック「学ぶキミを引き出す 化学基礎(ラーンズ)」を使って探究型学習・調べ学習・問題演習・文化祭発表で来場者を楽しませる実験を見せるプロジェクト学習(つまり、手を変え品を変えです)

なぜ?

「社会人基礎力」…講義、実験、発表を通して職業人、社会人としての力をつけるため

心がけたこと

「実学重視」…教養も専門も大切だけれど、実学は生徒が学習の意義を実感しやすいため

「学習の意義」…この学習にはこんな意味がある、という説明は欠かさない

変更した理由

専門学科高校の強みを最大限生かしたい

 

第5期

いつ・どこで?

2019~2020年度・大学院派遣研修

研修内容

「現職教員を大学院に派遣し、学校教育に関する研究・研修の機会を与えることにより、東京都の教員の資質向上に資することのできる指導的立場の教員を育成することを通して、東京都の教育課題の解決を図るとともに、東京都の教育の充実に役立たせる。」ことになっています。

 なぜ?

①教育の研究がしたかったから

②学位が取りたかったから

研修して良かったこと

小学校、中学校を知ることができた(理科の授業も、その他のこともいろいろです)

特別支援教育を知ることができた (入り口だけですが)

大学と大学院を知ることができた(研究、研究者、高等教育機関など)

学会を知ることができた(たくさん入りました。年会費…)

異校種の先生、他県の先生と知り合えた(学校や児童生徒の実態は違っても同じ職種だと実感しました)

 

2013.6都立高校の教育を語る会での発表をもとに2019、2021改変

化学基礎の全体像(教員からの視点)

物質って、反応ってなんでこうなの? と生徒に聞かれても「そういうものだからそれ以上答えられない」となりがちなので、教科書の裏にある大まかな「化学の学習の大テーマ」を捉えておきたい

 

大テーマ1「物質は粒子からできている」 例外なく!

1. 物質には性質がある ≠ 物体

[混合物、化合物、単体]をどう整理する?

集まり方から分類する・・・ 1種類の元素だけ or 2種類以上の元素

集まり方はガッチリ結合 or 結合していない

→ 分けにくいか(分解)か分けやすい(分離精製)か

2. 基本粒子は性質を持った最小の物体である

性質が元素、物体が原子等(イオン、分子)

1粒の性質 = 安定性を求めて変化する = イオンに変化 → イオン同士がイオン結合

数粒あると安定性を求めて → 共有結合(分子に変化)

多数あると安定性を求めて → 金属結合

補足:電気陰性度は「使える」

なぜ陽イオンと陰イオンに分かれるのか? なぜ非金属元素は共有結合するのか? なぜ金属元素は金属結合するのか?

→ 電気陰性度で説明できる (電気陰性度は化学Ⅱから化学基礎に降りてきた。化学基礎で説明する場面はほぼないが)

共有結合とイオン結合の境目はない

3. 粒子は数えられる = mol

原子量(ミクロ)とモル質量(マクロ)に同じ数値を使える利点 = アボガドロ定数NA

 

大テーマ2「反応は粒子と粒子の衝突」 (電子の移動もあるが、ほぼ衝突と考えてよい)

4. 酸塩基反応はイオン交換反応

HAとBOHがHOHとBAに交換される = 速い

5. 酸化還元反応は電子授受反応

単体 → イオン のような大きな変化が起きている = 遅いものもある

補足:酸化数は「使える」

2 HCl + Zn → ZnCl2 + H2↑ (酸の性質で紹介されるが、酸化還元反応)

塩酸の水素は共有結合なのに酸化数+1の水素イオンだった?

酸化数は「共有結合でもイオン生成のような電子の授受が起きたと仮定して酸化状態(電子が増減した状態)を定めた」数値

(NaHもH2O2も酸化数の例外ではない)

 

2013.6都生研での研修会発表をもとに改変

化学と生物とのつながり(教員からの視点)

化学の授業ネタとしてけっこうウケがいい(と思っている)生物関連事項

 

1.油脂と炭水化物の燃焼熱

食品としてのカロリーは2倍以上差がある

化学の人の見方(結合エネルギーがC-HとC-O、O-Hでは違うからなぁ)

生物の人の見方(水素がいっぱいあると還元力強そうだなぁ)

2.窒素固定

人間の手によるアンモニア工場生産(ハーバー・ボッシュ法)はNH3で1.6億トン

(生物の生産が1.8億トン + 雷と排気ガス0.4億トン)

3 CH4 + 2 N2 → 4 NH3 + 3 C

そしてアンモニアの製造過程でメタン(化石燃料)を1.1億トンを消費し、二酸化炭素を3.1億トン排出している

これを根粒菌のようなエコ&穏やかな形で生産できたらいいのに

3.酵素の反応機構

酵素が基質を立体的に捕まえる、反応させる、解き放つ・・・を繰り返す

→自然に固定される、自然に反応する、自然に追い出すしくみがすごい!

4.二重結合の影響

整列しにくくなる = 融点が下がる

オレイン酸(二重結合1個) 融点14℃

リノール酸(二重結合2個) 融点-9℃

リノレン酸(二重結合3個) 融点-11℃

クジラの頭には血流で融けたり固まったりをコントロールできる脂が詰まっている

 

2013.6都生研での研修会発表をもとに改変

授業構想、手法

研究発表

地学基礎

化学基礎

化学

授業フォロー

語り

板書写真1

板書写真2

板書写真3